仕事場にオカリナをもっていったのが役にたった。
夕方の調理の間、「うちに帰る」「娘が心配」と 不穏がのしかかった部屋。みみずくも、調理を間違え、少しいらいらしていた。なだめすかし、つまりは嘘をつくことはいくらでもできるかもしれない……
思いだしてオカリナを吹いてみた。
「ゆうやけこやけ」
「ふるさと」
「なだそうそう」
「君が代」
「茶つみ」
「おぼろ月夜」
みみずくがここに少し似た、自分の意思では外に出られなぬ鳥かごのなかにいたとき吹いていた曲を、吹いてみた。金網の張り巡らされた屋上。そこから北西の空に飯綱という信州の名山が見えた。
一緒にくちずさんでくださる人たちをみて、あのときのことは、まったく無駄なことじゃなかったと思える。七十歳も年が離れても、共有できる文化があるということ。日本という国の文化に自然と感謝の念を抱く。
髪を白くし、腰をまるめて、自分の子どもの名前すら忘れて……
やがてみみずくもたどるであろう道を先に歩む先輩たちに、自分にあるすべての善きものを捧げたい。
明日からも、精一杯やらなくちゃ。
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