夜更けの汚れた街に、猫一匹と、一人。
猫はちゃっかり荷物の上に乗っかって、動こうとはしない。じっとしてなにかに耳をそばだてている。
猫はノラだが毛並みもよく、少し太って幸せそうだった。「幸せ」という概念をもたないからこそ、幸せそうに見えるのかも知れない。
逆に不幸を嘆いている猫なんかいない。むかし病気で歩けなくなった猫を家に持って帰って介抱したことがあったが、あのとき猫は、歩道橋の下で、通りがかった僕に何度も鳴いた。鳴いたのはそのときだけだった。自分を助ける行為として、鳴いたわけで、まるで、嘆くという、およそ現実を変ることのない行為は生きぬくために他に必要な努力のために省かれているかのようだった。
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