「考えかたひとつで、生き方がまるっきりかわる、なんて思ってるのは、おまえさんかね?」
みみずくは、ふとそんなこえをきてぎくりと飛びのきました。
声の主は見当たりません。ただ、雑草が生い茂った柵の向こうに建物らしい壁があるだけです。ちびへびは銀木犀の香りに誘われ、もう先へ行ってしまいました。
みみずく:「だれ?」
冷たい一陣の風が、山から吹き降ろしました。木の葉が一気に舞い落ちてきて、からからと乾いた音をたてました。みみずくは、きっといまのは空耳であろうと思い、また一本の細い道を、壁に沿ってあるき始めました。
建物の入り口にさしかかったとき、みみずくは、さびついた鉄の門が、風にあおられてぎいと音を立ててあいたのに、ぎくりとしました。「食肉加工場 関係者以外立ち入り禁止」
ちびへび:「〇〇ハムの工場だよ。さいわいへびとみみずくは扱ってないようだけどね」
みみずくはさっきの声の主がなんとなく、気のせいではなかったことを思いました。
* * *さて、ちびへびと別れ、飛翔したみみずくは、自分がここ数日なにも食べていないことに気付き、巣に帰る途中に、せめておなかを満たしておかねばならないと、だしぬけに考えたのです。みみずくの目は、すぐに、木の根元で、同じく餌をあさっている野鼠の子どもを見つけました。
こねずみ:「!」
みみずく:「ごしょう!」
こねずみ:「まってください!」
みみずく:「なんだい?」
こねずみ:「ぼくはしょうねんです。まだこどもです。児童です。子どもの権利条約で保障されています。この国で効力を発揮する国際条約ですから、当然この森のなかでも効力を発揮し、ぼくの人権をほしょうしています」
みみずく:「・・・?・・・それはわかる。だけど、こちらも君を食わないことには生きていけない。心は痛めている。信じてくれ。だが、一回一回、それをためらっていては、飢えてしまうのはわかるね?」
こねずみ:「そういっていつの時代も大人は子どもを食い物にするんだ。子どもを商品にして私腹をこやしている。ずるいやりくちだ。ずるい!ひきょう!ろくでなしぃ!」
みみずく:「そうはいっても、きみを生んだご両親だって、大人だろう・・・?」
こねずみ:「問題を一般化するのはフェアじゃないと思う。僕の両親はそんな大人の仲間じゃない。ぼくはあなたの良心を信じますよ。」
みみずく:「じゃあ、あんたの両親をくわせてくれ。」
こねずみ:「・・・・・・」
すると、茂みに隠れていた、両親が出てききました。
ちちねずみ:「どうぞ、おたべください。わたしたち、じゅうぶんいきましたから」
みみずく:「いや、や、いくらなんでも、お子さんの目の前で、とはいくらなんでも・・・」
こねずみ&ちちねずみ:「それ、いまだ!!」
* * *
月夜のみみずくは、おうちに帰って、内側から厳重に鍵をかけ、傷だらけになった羽に、ヨードチンキを塗りました。ヨードチンキで赤く染まった羽を包帯で巻くと、もう東の空は明るみ始め、街のほうからは、煙が立ち上りはじめているのがみえました。なにごとも明るい一番鳥たちも鳴き始めました。みみずくとはもう何年も縁がない仲間たちです。長い、惰性な朝が始まる前に、みみずくは、とにかく今日一日が、無事で終わったことを神に感謝し、明日の晩は、夜間病院にでも行くべきなか、それとも、食料調達に行くべきなのか、ちょっと迷い、案外ころっと寝てしまったのでした。 おわり
今宵も月夜に導かれ、
あっちの止まり木へふわり、こっちの止まり木にふわり。
いったいどこへ行き着くのやら。
そんな「月夜のみみずく」の自分のための備忘録
2008年10月24日
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