盆をすぎた。迎え火も送り火も、墓参りも何一つできなかった忙しい夏だった。
横浜でも虫たちの合唱がはじまる季節に入る。
鈴虫松虫の音を聞くと、信州の学生寮で過ごした秋の夜半を思いだす。
あっという間の秋をすぎ厳しい冬に入っても、いくつかはまだ生き残り、そんな彼らは切ないくらい美しく鳴き、冷気のなか澄みきったその音色は幽玄ですらあった。
去年のいまころは、権堂にある古い喫茶店で働いた。お盆中はあの世からの常連客もいっぱいいるらしく、店は静かでも賑やかであった。あのとき流れていた昔の映画のサントラがいまも耳に焼き付いている。お客様は風俗店で働いていると思われる中国人が多かった。
一年たって、今日も明日も、仕事場に通う毎日。コーヒーは結局いれられなかったが、介護や料理は少しずつ要領よくなってきた。
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