眠い眼をこすり、バイクでいつもの坂道をかけあがっていく……間に合うはずであった。
半年残業はしこたましても遅刻はしたことのないみみずく。
がしかし。今朝は遅刻した。
というのも通勤途中の通り過ぎる景色のなかに、ふりかえざるを得ない何かをみた気がしたからである。
(んんん???)
(人だ)
(だれ?)
(どこかでみた気がする)
(あ、あ、ありゃ帰宅願望の激しい隣の棟の○○さんがひとりで、歩いとるよ!)
それは通常、有り得ないことであった。 なんてこった。
前にこのかたは過去、事務の姉ちゃんを"職員"と信用させ、門の外に出ていってしまい一騒動になった。鵜呑みにしてしまった事務も事務だが、本来自由に外出できるのがグループホームの望ましい姿ではある。
バイクを停め、五十メートル坂を下り みみずくはそのひとのもとに走りよった。
案の定、「あそこはなかなか返してくれないんですよ」「いまうちに帰る途中です」
みみずく、ひとまずホームに連絡、上司に「連れてかえってきなさい」との命をうける。
かといって強引に連れて帰ることもできず、パーソンセンタードケアとつぶやきながら、一緒に坂を下っていったのであった。
つづき
み「○○さん、えーと、やっぱりこっちの方に行きますかねぇ?」
「そうだねえ、娘が先にいってまってるからね」
み「おちかくなんですか?」
「ここは私の散歩道だったから」
み「・・・・・・」
ついて行くとなんてことはない、人里離れた山奥でもない、交番でもない、本当に娘の家についてしまった。
「ああ、○○の人? ごめんね、荷物持って先きちゃった」
電話
上司から「ああみみずくくん? タイムカード書かなくていいから戻ってきて。娘さんと一時帰宅したんだって」
み「・・・はい・・・では、業務に復帰します・・・」
信用してよかった。連れて帰ってこなくて良かった。
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