今宵も月夜に導かれ、

あっちの止まり木へふわり、こっちの止まり木にふわり。

いったいどこへ行き着くのやら。

そんな「月夜のみみずく」の自分のための備忘録

黒い猫の話

2007年2月28日

 

ゼミの追いコンがあった。
北アルプスがまもなく出てくる朝日にうっすらと白んでいた。
余興も覚め、明け方の女鳥羽川沿いを友達と兄弟について話らいながら歩いていた。

受験勉強に追われていた冬の暖かい日、僕は捨て猫を拾ってきた。真っ黒な猫はやせこけ、差し出すミルクも飲まなかった。体をあらってやり、家族の目を盗んで庭先にかくまっていたのだった。

しかし数時間後発覚し、家で死なれたらいやだからすぐに捨てて来いという指令が下った。抵抗したところ、家に鍵をかけられ、半日のあいだ入れてもらえなかった。その夜半、階下におりていったところ、印象深い・・・次のような光景を目にしたのである。すなわち、寒い小雨のふるなか、庭に出てドライヤーで猫をあっためていた兄の姿があった。

それだけの話である。だがそのとき僕は兄に人並み以上にやさしいところがあるのを知ったのだった。

友人の部屋につく手前で、一匹の黒猫が走りよってきて、しばらくのあいだ僕らにまとわりついてきた。あの日の黒猫とは違い、きちんと首輪をつけ、毛並みもきれいだった。どこかでえさを与えられているのかもしれない。思いがけない偶然に目が覚める思いだった。

あの日拾ってきた黒猫は、僕が寝ているあいだ、近所の神社の目立つ参道に捨てられてしまった。それ以来知らないあの状態だったらそう長くは生きられそうにないはずだった。僕はそれを追うことをあきらめ、また受験勉強の生活に戻っていったのだった。

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